【AI社員実践記 第37話】名前を伏せれば、事例は出せる?AIが見落とした「ご本人の目」

こんにちは、オフィスピコッツの小笹です。

お客様の名前を消したら、その仕事は事例として公開できるのでしょうか。

今回、AI社員と作った下書きには、会社名もサイトのURLも入れていませんでした。それでも、金額や契約の条件を見て、私は止まりました。知らない人には分からなくても、ご本人が読んだら「これはうちのことだ」と気付くのではないか。

2026年10月3日から4日にかけて、当社サイトへ追加する事例を2本作りました。題材は、ホームページの運営サポートと、お知らせ更新の委託です。下書きは3版になり、10月4日に公開しました。

ただ文章を整えた2日間ではありません。すでに決めていた実績公開の方針を読み直し、記録の取り違えを直し、どこまで具体的に書くかを一つずつ決める作業でした。最後には、古い事例の見せ方や、そこへ入るためのリンクの話まで広がりました。

「引き継がれてないですね」と、URLを一つ返した

きっかけは、当社サイトのアクセス解析でした。固定ページと投稿のデータを並べて見直したあと、AI社員に聞きました。

「このサイトのアクセスを増やし、依頼を増やすにはどうすればいい?」

返ってきた案の一つは、当社の名前を知って、確かめに来た人へ、頼んだあとの中身を見せることでした。トップページや会社案内を見ている人に、実際にどんな相談を受け、どのように支援しているのかを伝える。方向としては理解できます。

ただし、アクセス解析から訪問者の事情が全部分かるわけではありません。「名前を知って確認しに来ているのではないか」というのは、このときのAI社員の読みです。それだけで、検索から来た人より問い合わせに近いと確定したわけではありません。

問題は、具体的な手段の方でした。

AI社員は、許諾の取れたお客様の事例を実績ページへ載せる案を出しました。私は、当社のコラムのURLを貼って返しました。

「引き継がれてないですね」

貼ったのは、2025年6月に公開した「なぜ私たちは最近の制作実績をあえて公開していないのか」です。お客様のサイトは営業の道具でもあり、その仕事をどこまで外へ見せるかは、当社の都合だけでは決められません。実名や画像を載せることを強制しない、という考え方を説明しています。

今回の解析対象にも、このページは含まれていました。それでもAI社員は、方針を確かめないまま提案へ進んでいました。ページの存在をデータで見ていることと、内容を読んで判断に使っていることは、別でした。

実名の実績と、支援の中身を伝える事例は分ける

当社の方針は、仕事の話を何も公開しない、というものではありません。

方針の記事には、実名の実績とは別に、ご要望や予算、作業のボリュームを紹介する事例の案内もあります。依頼者につながる情報を抑えながら、どんな支援を受けられるのかを知っていただくためのものです。

既存の事例は3本ありました。今回の作業記録で整理した元の掲載時期は2024年から2025年で、新しい事例をしばらく追加できていませんでした。

AI社員は、方針の中で事例を2本足す案へ組み直しました。サイトの運営を継続して支える仕事と、お知らせの更新だけを引き受ける仕事。どちらも、完成したホームページの写真だけでは伝わりにくい内容です。

何を頼めるのか。どこまでこちらで引き受けるのか。依頼する側には、どんな作業が残るのか。そうしたことが分かれば、相談する前の判断材料になります。

必要なのは、実績公開の方針をひっくり返すことではありませんでした。すでにある方針を読み、その範囲でできる伝え方を形にすることでした。

記録の始まりを、お付き合いの始まりにしていた

AI社員は、顧客管理の記録を基に下書きを作りました。

その段階で、事実の取り違えが二つ出ました。一つは、お付き合いの長さです。手元の記録がある時期から始まっていたため、そこを継続利用の始まりとして書いていました。実際には、それ以前からのお付き合いがあります。

記録の最初の行は、取引の最初の日とは限りません。管理方法が変わった日かもしれませんし、今回渡した資料が、その後の期間だけを抜き出したものかもしれません。今回も、記録にない期間を「なかったこと」にしてしまっていました。

もう一つは、作業をどの依頼先に結び付けるかです。記録のまとめ方に引っ張られ、別の依頼先の作業を、この事例の作業として拾っていました。文章自体は自然でも、誰の仕事かが違っていました。

どちらも、私が読んで直しました。加えて、先方の業種を、公式サイトを確かめずに推測していた箇所もありました。

数字を記録どおりに写すだけでは足りません。その記録が何を表すのか、どこまでの期間を含むのか、どの依頼先のものなのかまで確かめる必要があります。

今回は、当時の経緯を知っている私が読めたので気付きました。AIに渡す資料を増やすことと、その資料だけでは分からない境界を伝えることは、別々に必要なのだと思います。

「具体的な金額のままで合っています」では足りなかった

細かな点を決めて、2版目ができました。そこで私は聞きました。

「両方そうですが、ここまで具体的な金額は出した方がいいの?アバウトにした方が実績公開の考え方にあってないか?」

AI社員は、方針の記事と既存の事例を読み直しました。そして、予算を具体的に紹介する方針で、既存の記事にも金額や計算があるので、数字をそのまま載せても方針に合う、と答えました。

読み直したこと自体はよかったのですが、その答えには抜けがありました。

知らない人が読んで、どこの依頼先か分かるか。それだけで判断していたのです。私は、具体的な金額と契約年数が並べば、ご本人が気付くのではないかと指摘しました。

事例に名前がないことと、本人が自分の契約だと分からないことは同じではありません。自分が払っている金額や、取り決めた条件は、ご本人がよく知っています。第三者にはただの数字でも、当事者には手がかりになります。

しかも、ここで考えたいのは、本人に分かるかどうかだけではありません。自分の契約の細部が事例に使われていると知ったとき、どう受け止められるか、という問題もあります。

今回の下書きには、外から眺める目はあっても、依頼した側から読み返す目が足りませんでした。

全部ぼかすのではなく、8項目を一つずつ決めた

指摘すると、AI社員は今度は逆へ振れました。金額は幅にし、本人に分かる細かな数字は全部外す、という案です。

それでは、何をどの程度頼めるのかが伝わりにくくなります。そこで私は、項目を一つずつ見て、残すかどうかを決めました。

判断するときに使った言葉は、「他でもあるか」です。同じ条件でお受けしている仕事がほかにもあるか。その依頼先だけの特徴になっていないかを確かめました。

事例確認した項目今回の判断
運営サポート費用同様の条件がほかにもあり、残す
運営サポート印刷物の枚数個別性が高いため外す
運営サポート臨時チェックの回数ほかにもある内容として残す
運営サポートお付き合いの長さ今回は残すと判断
お知らせ更新費用個別の金額を出さない
お知らせ更新対応期限ほかにもある条件として残す
お知らせ更新更新回数今回は残すと判断
お知らせ更新主な作業内容支援の中身を伝えるため残す

8項目のうち、残すと決めたものは6つ、外したりぼかしたりしたものは2つです。この実践記では、判断の過程を伝えるため、表にも個別の金額や枚数は載せていません。

ただし、「ほかにもある」なら必ず特定を防げる、という意味ではありません。一つずつはよくある条件でも、地域、業種、期間、作業内容が重なれば、分かる人には分かる可能性があります。

項目ごとに残すものを選び、最後は組み合わせでも読む。今回の判断は、匿名化の万能な基準ではなく、当社がこの2本を作るときの個別の判断です。

昔の条件を、今も頼める料金として見せない

2本目の費用をぼかした理由は、特定につながるかどうかだけではありません。現在は、その金額ではお受けしていないからです。

事例を見る人にとって、過去にどう頼めたかは参考になります。一方で、具体的な金額が書かれていれば、自分も同じ条件で頼めると思うかもしれません。

そこで、個別の金額は出さず、当時の特別な条件であることと、今は同じ条件では受けていないことが分かる形にしました。新しいご依頼の費用は、内容や頻度を伺って案内します。

このことは、古い事例を直す話にもつながりました。既存の記事には、当時の料金がそのまま書かれていました。だからといって、今の金額へ差し替えると、過去に実際に行った仕事の記録まで変わってしまいます。

今回決めたのは、当時の金額を残し、その時点の料金であることを注記する直し方です。事例として残す数字と、現在の見積もりの案内を分けます。

新しい事例では個別の金額を外し、古い事例では当時の金額に注記する。同じ処理にそろえる必要はありませんでした。何を伝えるための数字なのか、今読んだ人がどう受け取るかで考えました。

「で、そのページはいつ作るの?」

3版目ができると、AI社員は別の記事の修正へ進もうとしました。

私は聞きました。

「で、そのページはいつ作るの?」

下書きを渡したところで、一つ終わったようになっていたのです。でも、今回の目的は、下書きを保存することではありません。サイトを見に来た人が、頼んだあとの中身を読めるようにすることです。

そこから、投稿画面へ貼れる形に整えました。題名や見出しは既存の事例に合わせ、URLの付け方もそろえます。新しい記事だけが、別のシリーズに見えないようにするためです。

2本は、10月4日に公開しました。私が返した連絡は「2本公開完了」でした。

文章の完成と、ページの公開は別です。AI社員へ依頼するときも、どの状態まで進めたら終わりなのかを、こちらが言葉にしておく必要がありました。

新しい2本だけでなく、古い事例と一覧も見直す

既存の事例を見て、もう一つ気になりました。作りが古いままなのです。

「かなり古いつくりのままですね。まず既存の事例ページ自体を直した方がいいかな」

料金の注記だけでなく、案内先のリンクや誤字も見直す対象になりました。作業記録には誤字が3か所あったと残っています。新しいページを足しても、その前後で読む記事が古いままなら、案内としてはそろいません。

アイキャッチも、依頼先を連想させる写真を使わず、文字を中心にした画像を作りました。最初の案へ返した修正は、「上の横棒不要」「フォントを細めに」の二つです。既存の3本も同じ形にそろえる準備をしました。

この確認では、AI社員が既存の記事を一括して「アイキャッチなし」と扱ったことも分かりました。実際には、1本に写真のアイキャッチがありました。一覧をざっと見た印象を、そのまま全記事の状態にしてはいけませんでした。

さらに、事例の一覧を、コラムの一覧と同じような見せ方へ変えることにしました。新しいページへ来た人が、ほかにどんな事例があるのかを探しやすくするためです。

作業記録では、一覧用のファイルを2つ用意し、置き方まで渡したところまで確認できます。ここは、ファイルができたことと、サイトへの反映が終わったことを分けておきます。古い記事の修正や一覧の変更がすべて完了したとは、今回の資料だけでは言い切れません。

公開したあと、どこから読んでもらうか

最後に残ったのは、事例への入口でした。

今回の作業記録では、主な入口として確認していたのは、記事末尾の一覧です。そこだけに頼らず、フッター、実績ページ、地域別のページにも短い案内を足すことにしました。

これは、翌10月5日の作業として依頼する内容です。この実践記で記録しているのは、10月4日までの作業。3か所ともリンクが増えた、という完了報告にはしません。

事例を2本公開したことは、成果として数えられます。ただ、それでアクセスや問い合わせが増えたかは、まだ別の話です。

ページがある。入口から見つけられる。読んだ人が相談の判断に使える。それぞれを確かめて、初めて今回の最初の問いへ戻れます。

今回の数字と、確認が残っていること

項目今回の記録
作業した日2026年10月3日〜4日
既存の事例3本
新しく公開した事例2本。10月4日に公開
下書きの版3版
個別に判断した項目8項目。残す6、外す・ぼかす2
記録からの取り違え取引の始まり、作業の依頼先の2点を修正
古い記事の見直し料金注記、リンク、誤字、見出し、アイキャッチが対象
一覧の変更ファイル2つと設置手順を準備。反映完了は未確認
入口の追加3種類の場所へ案内を足す予定。10月5日の作業分
集客への効果アクセス・問い合わせの増加は未確認

今回、AI社員が助けになったのは、記録から事例のたたき台を作り、修正を重ねて公開用の形へそろえるところでした。その一方で、方針を読まずに提案し、記録にある範囲を事実の全部として扱い、匿名の判断でも一度は「そのままでいい」、次には「全部ぼかす」と振れました。

どちらかにまとめて決める方が、処理は簡単です。でも、実際の仕事には、残してよい条件と、その相手だけの条件が混じっています。そこを分けるには、仕事の経緯を知っている人の確認が必要でした。

次に事例を作るときは、最初に方針を読ませる。記録の期間と依頼先を確かめる。外から読む人だけでなく、ご本人が読んだときも考える。そして、項目とその組み合わせを見てから、公開する形を決める。

今回加わったのは、事例2本だけではありませんでした。文章が整っているかを見る前に、「この人の仕事を、どこまで外へ出してよいのか」と立ち止まる確認です。

名前を伏せたところで、確認は終わりません。その先を一緒に見直したことを、今回の記録として残しておきます。

AI社員実践記は、まだ続きます。

技術の話はここまで。考え方の話は「社外Web担当の頭の中」へ。

この記事の監修小笹 通典(オフィスピコッツ株式会社 代表取締役)
京都産業21 登録専門家(No.46)/滋賀県DX協創パートナー/デジタル庁 デジタル推進委員。2002年開業、創業25年目。京都・滋賀を中心に1万件超のWeb活用・制作に携わる。 会社概要を見る